大判例

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東京高等裁判所 平成元年(ネ)4358号 判決 1990年8月29日

控訴人

小川洋一

右訴訟代理人弁護士

松井一彦

中川徹也

被控訴人

株式会社下野カントリー倶楽部

右代表者代表取締役

橿渕セツ子

右訴訟代理人弁護士

小野寺利孝

山下登司夫

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取消す。

2  控訴人が下野カントリークラブ会員資格保証金としての入会保証金預託契約上の地位(下野カントリークラブ会員権)を有することを確認する。

3  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

本件控訴を棄却する。

第二  当事者双方の事実の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決書二枚目表四行目中「訴外星ケ浦興産株式会社」から同五行目末尾までを「訴外星ケ浦興産株式会社との間で下野カントリークラブ(以下「本件ゴルフクラブ」という。)の入会保証金預託契約を締結し、同時に、本件ゴルフクラブのゴルフ場施設の優先利用契約を締結した。」に改める。

2  原判決書二枚目表六行目中「本件ゴルフクラブ」から同七行目末尾までを「同訴外会社が運営していた本件ゴルフクラブ及びゴルフ場に関する営業を譲渡したので、被控訴人が同訴外会社から同クラブの入会保証金預託契約上の地位及びゴルフ場施設優先利用」に改める。

3  原判決書二枚目裏二行目中「会員資格」を「ゴルフ場施設優先利用契約上の地位(本件ゴルフクラブの会員たる地位)」に改める。

4  原判決書二枚目裏二行目4の次に「ゴルフ会員権といわれているものは、入会保証金預託契約上の地位(これが本来の意味での会員権である。)と、これを前提とするクラブ入会契約上の地位つまりゴルフクラブの会員資格(ゴルフ場施設の優先利用権を有するとともに会費納入義務を負う)の二つからなると解すべきものである。」を加え、同五行目末尾に「このような法的構成が認められるべきことは、ゴルフクラブ会員権が有価証券化していて財産的価値をもつものとして取引の対象とされ、また、会員が死亡した場合にも相続人による会員権の承継が認められていること、さらには被除名者のゴルフクラブ会員権を売買する取り引き慣行も存在することからいって明らかである。」を加える。

5  原判決書二枚目裏末行中「1ないし3の各事実は全て認める。」を「1、2のうち、控訴人が訴外会社に入会保証金を預託して本件ゴルフクラブの会員権(ただし、その意味は後述のような意味での契約上の地位である。)を取得したことおよび被控訴人が訴外会社の債権債務一切を承継したことは認めるが、控訴人と被控訴人との間の会員としての権利義務関係の内容は争う。会員と被控訴人との関係は、債権的法律関係(入会契約)であり、これを会員の側からみると、入会保証金返還請求権、優先的施設利用権等の権利と、これと裏腹の関係にある年会費納入等の義務を含んだ契約上の地位である。そして、この契約上の地位を通常会員権と総称しているにすぎない。会員権の譲渡とは、この契約上の地位の譲渡にほかならないのである。なお、被控訴人においては会則九条の定めにもかかわらず、会員が死亡した場合には、相続人が会員の地位を承継することを認める取扱いをしているが、このことは除名の場合に除名されたものが会員としての契約上の地位を失うこととは別に矛盾する扱いではない。同3の事実は認める。」に改める。

第三  証拠の関係<省略>

理由

一当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がなく、失当として棄却すべきであると判断する。その理由は、次のとおりである。

請求原因1、2のうち、控訴人が訴外会社に入会保証金を預託して本件ゴルフクラブのいわゆる会員権(ただし、その意味内容については争いがあり、後に判断する。)を取得したことおよび被控訴人が訴外会社の債権債務一切を承継したこと並びに3の事実は当事者間に争いがない。なお、<証拠>によれば、下野カントリークラブの場合はいわゆる預託金型の会員組織と称せられるものにあたると認められる。

控訴人は会員権が財産的価値を有するものとして一般に取引の対象とされている実態から考察すれば、ゴルフ会員権は、入会保証金の預託に関する契約関係とゴルフ場施設利用に関する契約関係とに分けて理解すべきものであり、前者がいわゆるゴルフ会員権として取引の対象になっているもの(本来のゴルフ会員権)、後者は会員たる地位とかプレー権といわれているものと把握すべきであると主張する。そして、前者については会社の側からする一方的解除は許されず、またゴルフクラブからの除名は後者の契約解除に止まり、被除名者は、なお前者すなわち本来のゴルフ会員権を保有し、これを他に譲渡することができると解するのが相当であるから、控訴人は除名されてはいるがなお右の意味の会員権を有すると主張する。

控訴人の主張の背景として、近年ゴルフ会員権が財産的価格を有するものとしてその取引が盛んに行われ、会員権相場価格と入会保証金預託価格との差が大きくなったこともあって、会員権取得の目的もゴルフクラブでプレーすることよりも会員権相場による利殖を狙う向きが増えてきている実情にあることは、理解できないではないし、その法的構成は一般論としてはなかなかよく考えられた議論であると思う。

しかしながら、いわゆるゴルフ会員権が財産的価値を有するものとして取引(場合によっては投機)の対象になっているとはいっても、これは社会全体からみれば一部の趣味を共にする者の社会でのできごとであって、整った法的制度のもとにおける一般的な経済取引にまで成熟しているとは認め難く、あえて控訴人のいうような法的構成をとらなければならないかということ自体疑問が残る。少なくとも、被除名者についてまで控訴人の主張するような法的構成が妥当かどうかは常識的にいっても疑問である。

控訴人は被除名者の会員権を売買する取り引き慣行が存在するというが、これを認めるに足りる証拠はない(控訴人は<証拠>に基づくアンケート調査の結果をもとに右の取引慣行があると主張するが、その調査方法は外部へ公表しないことを前提としたものであって、責任ある回答が得られるものとはいえず、公正な調査結果として訴訟において援用できるような信用性のあるものとは認め難い。)。以上のように、控訴人の会員権の法的性格についての主張は、いまだ熟した法律論とは認められず、採用することができない。結局控訴人の権利義務の内容は、入会保証金預託契約上の地位を含む被控訴人との債権的な契約上の権利義務全般とみるべきである。

そうすると、控訴人は除名処分により本件ゴルフクラブの会員権(控訴人のいう入会保証金預託契約上の地位)も失ったというべきであり、その請求は理由がない。

なお本件の場合会費を支払いさえすれば、除名されることもなく、控訴人が主張するような会員権相場価格と入会保証金預託価格との差額に相当する財産権を失う結果にもならなかったことを付言しておく。

二以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官上谷清 裁判官滿田明彦 裁判官亀川清長)

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